だんだんその気になってくる

去年の春頃に僕たちが引っ越しを考えていたのにはもう一つ理由がある。
賃貸住宅につきもののあの忌わしい『更新』が近づいていたからだ。

それにしても、この『更新』というシステムはどうにも納得がいかない。
今まで住んでいた同じ部屋が、綺麗に改装される訳でもなく、何か新しいサービスが加わる訳でもなく、ましてや家賃の見直しがされるという訳でもないのに、何故に一月分もの家賃を手数料として取られなくてはならないのか?

僕たちが公営住宅に魅力を感じていたのは更新が無いからなのだが、でも、公団の抽選は何度応募しても毎回決まって落選だった。
そして、画期的なアイデアに思えたハウス暮らしの夢も消え去った。

この他にも色々な物件を見に行ったのだ。
更新のない暮らしを夢見て、中古マンションの購入も考えた。
近頃は中古マンションも底値状態で、今の家賃より安い返済額で買える物件が沢山ある。
計算してみたら、このまま家賃を数年間払い続けるくらいで十分に買えてしまえそうだ。
数年前に友人のカメラマンが中古のマンションを購入し悠々と暮らしているのを見ていたので、選択肢の一つとしてそんな事も考えていたのだ。

でも、結局この時は「これだ!!」という物件には巡り合えなかった。
やれやれ、今回もまた更新か・・・
しかし、次の更新までにはなんとかしなくては・・・
そう思っている時に、朝霧の土地に出会ったのだ。




Nに連れられて土地を見に行った直後は、正直こんなとこに住むのは絶対に無理だと思った。
妻は相当気に入ったみたいで、あの草原の素晴らしさを熱く語っていたが。
家に戻ると、Nからも僕たちの朝霧移住を熱望するメールが届いていた。
そこには、僕たちがあの土地に住んでいる様子や、あの高原がちょっとした芸術家村のような状態になっている、そんな楽しそうな未来の夢が書かれていた。
「この夢は是非とも実現したいものである!!」
興奮気味に書かれたそのメールは実に悩天気でいかにもNらしく、また僕たちが移り住んでくるのを楽しみにしてくれていることが伝わり、僕もちょっと嬉しくなった。
しかし、その時の僕はまだまだ否定的な気持ちで一杯だった。
たしかに周りの景色は素晴らしかったが、薮化して足を踏み入れることもままならないあの土地は、僕が思い描いていた草原の暮らしとはあまりにも似ても似つかぬ状態に思えたからだ。
それに、あの廃屋!!
Nはさかんに「ココに住めばイイじゃん」なんて言っていたが、僕にはまったく理解出来なかった。
とにかく、僕はトゲトゲの薮とカビカビの廃屋にただただ猛烈にビビりまくっていたのだ。

しかし、しばらくして僕のビビり心も少しづつ薄れてくると、あの恐ろしく思えた薮や廃屋が、実はそれほど大した問題ではないように思えてきた。
普通、僕たちが目にする宅地は綺麗に整地された状態で売られている。
でも、どこだって整地する前はあの薮と同じような状態なのだ。
数年前、家の近所の雑木林をどこかの業者が切り開いて、整地して、あっという間に宅地にしてしまったことがあった。
それまでうっそうと繁った(近所の住民にとってはなかなか貴重な)森だった場所が、わずか数日でどこにでもある普通の宅地になってしまった。
あの時はひどく残念に思ったものだが、考えてみれば、あんなにうっそうと繁っていた森がわずか数日で更地になるのだから、あの薮や廃屋なんかあっという間に片付いてしまうのではないか。
それに、廃屋が建っているということは、少なくとも過去に一度は整地したことのある土地のはず、薮や木を伐採し、廃屋を壊してしまえば(既に倒壊寸前だし)見違えるような立派な更地になるだろう。
どうやら日頃からパッケージ化された商品ばかりに接しているものだから、手付かずの状態のものにどう対処して良いのか分らなくなっていたようだ。
幸い、朝霧には林業のバイトをしている友人もいる。
彼に相談すれば樹木の伐採くらいお願いできるかも知れない。
もしかしたら、交渉次第では売り主の方で整地してくれるかも知れないし・・・

そう考えると、途端にあの土地が素晴らしいところのように思えてきた。
なんたって、薮から一歩外に出れば、周りの景観は本当に素晴らしいのだ。
三方をぐるりと山に囲まれた隠れ里のような静けさ。
それでいて麓に広がる牧草地は陽当たりが良く、東側には富士山が美しく聳えている。
空にはパラグライダーが舞い、周りには見渡す限り一軒の家もない。
こんな楽園のような場所が他にあるだろうか?
しかも、近所には友人達が住んでいるし、脇道をちょっと下がれば昔からの集落があるので、全くの孤立無援という訳ではない。
この前見た感じでは、ライフラインも一応は整ってるみたいだし・・・
う〜ん、考えれば考えるほど、素晴らしい土地に思えてきたぞ。

この頃には僕のビビり心も完全に消え失せていた。
そして、朝霧移住をかなり魅力的なことのように思い始めていた。
しかし、これには妻の説得もかなり効いたのだ。
「やっぱりあの草原はすばらしい!!」
「こんなチャンスを逃したら二度と巡り合えないかも知れない!!」
こんなことを何度も耳もとで聞かされていると、だんだんその気にもなってくる。
「思いきって、引っ越しちゃおうか!!」
「とりあえず、例の土地の詳細を問い合わせてみようよ。」
「他にも手頃な物件がないか調べてみないとね。」
こうして僕たちは朝霧移住に向けて本格的に動きだしたのである。
やっぱり、まんまと乗せられたのかな・・・

と、ここまでは良いんだけど、問題はお金だ。
土地の販売価格はさすがに田舎だけあってそれほどの額でもない。
以前、中古マンションの購入を考えたのと同じくらい、僕たちだって頑張れば買えるくらいの額だ。
しかし、土地だけ買っても、家が無くては・・・
Nの言うように例の廃屋を直して住むってのは?
ううう、それだけはどう考えても絶対無理だな〜
だって、もう既に倒壊寸前だし・・・
仮に直すにしたって、それなりの費用は掛かりそうだぞ。
さて、どうする、どうする?

しかし、人生とは上手く出来ているもので、
このお金問題が意外と簡単になんとかなっちゃうのだ。
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by fujiyama67 | 2006-03-17 21:27 | 家づくりの記録


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